2009年11月18日

05: Carina

彼女の名前はカリーナ(Carina)と言った。小柄で細身。はっきりとした顔立ち。うっすらと茶色い肌がラテンアメリカという言葉を連想させた。ほんの一瞬会っただけでも、ひっそり何らかの印象を残すような女の子だった。

彼女はリアと同じ学生寮の同じ階に住んでいた。同じブラジル人で、同じRio de Janeiroの出身、同じ学校に留学している二人が意気投合するのに時間はかからなかった。

例のブラジル音楽のライブ当日、リアが連れてきた友達の中にカリーナはいた。リアは僕にひとりひとり紹介した。その中ですぐに興味を引かれたのが、彼女だった。彼女は僕が日本人であることを知ると、少し興味を持ったようだった。

「日本人で思い出したんだけど、ブラジルの映画で「花の島(Ilha das Flores)」というのがあって。それがブラジルで農業をやっている日本人の話からはじまるんだけど、その映画の一番初めのシーンに日本人の顔が出てきて、日本人の目がどうとか日本人のステレオタイプ的な特徴を紹介するんだよね。なんかそれを思い出した。。。」

カリーナは僕にその映画のあらすじを一つ一つに説明した。ライブハウスの入り口に並んでいる時だった。彼女のしゃべり方は、ゆっくりと、言葉を選ぶような感じが特徴的だった。彼女が比較的長い話をする時、どことなく真面目さを感じさせるところがあった。それでも、雰囲気は明るく、楽しいことは大歓迎という感じが伝わってきた。

話が終わると彼女は中へ入った。その行動があまりにさらっとしていたので、彼女が僕に向けていた意識をふわっと抜けて、再び自分の世界へと戻って言ったような気がした。僕もそれに続いた。

中に入ると、ちょうど演奏が始まったところだった。グループの編成は少し変わっていて、バイオリン、太鼓のようなもの、そしてトライアングル(!)という三人構成だった。バイオリンの人は時々アコーディオンに持ち替えていたが、ほとんどの曲でバイオリンを弾いていた。

音楽自体も、今まであまり聞いたことがないような音楽だった。少なくとも、僕が持っていた「ブラジル音楽」のイメージとは違っていた。それでも、感じのいい音楽だと思った。踊れる音楽だった。楽しく踊れれば、どんな音楽でもひとまずオッケーだった。

カリーナは横でリアたちと踊っていた。彼女たちは、その音楽がどういった種類のもので、どうやって踊ればいいのか心得ているようだった。

「この音楽は、こうやって踊るんだよ。」

ふと、隣にいたカリーナが、僕の手をとって、もう一方の手を背中にまわした。それは非常に自然で、もうずいぶんと踊りなれているような感じがした。

「1、2、1、2。ほら、こういう感じに動いて。簡単でしょ?」

彼女はゆっくりと僕に動き方を教えた。左に二歩、右に二歩動くステップだった。確かにそれは簡単で、一瞬で覚えられるような動きだった。

はじめは少しぎこちなかったけれど、慣れてくると比較的スムーズに踊れるようになってきた。突然のこととは言え、こんな風に素敵なカリーナと一緒に踊れるのは悪くなかった。彼女のみずみずしくて、でもよく引き締まっている肌が心地よかった。

「ほんとはこんなこと言いたくないんだけど、、、」

しばらくすると、そう前置きしておいてカリーナは言った。

「ブラジルでは、もっと体をくっつけて踊るんだよ。」

おそらく本当のことなのだろう。けれども一緒に踊っている子からそんな風に言われると、ちょっとどきどきした。こんな風に女の子に踊りの手ほどきをしてもらうのは初めてだった。

「ほら、もっと肩を安定させて。そこはあまり動かさないで。」

彼女は、さっき映画の話をしていた時のようなほのかな真面目さで、僕に踊り方を教えてくれた。そして、一曲ぶん踊りが終わると、さっきの話が終わったときように、ふわっと自分の世界へ戻っていった。

僕は今覚えたステップを復習してみた。確かにそれは簡単なステップだった。そういってもまだ、ほかの人に教えられるぐらい体にしみこむようなわけにはいかなかった。だからその後、一緒に来ていたルーマニア人の子と踊ったときにはステップがあやふやになっていた。

とはいえ、誰かと一緒に踊るのはそれだけで十分に心地よかった。その子もずっと踊りたそうな様子だった。残りの夜はずっと一緒に踊った。(本当はカリーナを誘いたかったけど。)

それでも、帰ってからステップを思い出そうとしてみた。けれども、それはうまくいかなかった。あまりに簡単すぎたので、記憶に残らなかったのだった。

そしてその音楽自体もあまり記憶に残らなかった。もともとそんなに派手な音楽ではなかったのだ。そしてもちろん、その時は、自分がなにか新しい世界に足を踏み入れたという印象などをもってはいなかった。

(その音楽がforróと呼ばれるジャンルの音楽だった問うことを後になって知った。でもこの時は当然まだそんなことは知らなかったし、音楽自体にはあまり興味を持っていなかった。)

posted by aye(あい) at 22:57| Comment(0) | TrackBack(0) | ブラジルへの道 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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