2009年10月15日

01: Lia

リアはいつも一番前の席に座っていた。40人ほど入る少し大きめの教室は、いつも3分の一ほど埋まっていて、これから一年間をフランスで過ごす留学生たちの活気にあふれていた。フランスの大学に慣れるため、現地の学生に先立って、9月の始めから留学生のために準備コースが用意されていたのだった。学生の考えることなどどこの国でも似たようなもので、あまりみんな一番前の席には座りたがらない。

そして彼女はひとりだった。留学生たちはまず、自分と同じ国か近い文化の国の友達をつくる。イタリア、ドイツ、スペイン、イギリス、、、近隣のヨーロッパの国からは学生の数も多かった。カナダ、オーストラリアなどの、英語圏からの学生も目立った。もちろん日本人もいた。(みんな自分の国の言葉で話していたので、自己紹介をしなくとも、誰がどこの国から来たのか予想がついた。)だから、その中でひとりでいるのは、同じ国の学生がいないためか、自ら好んでそうしているためかどちらかだということはなんとなく分かった。

一番前に一人で座っている類の子は友達になりやすい。それまでの経験からそんなふうに確信していた僕が彼女に話しかけるのにそう日数はかからなかった。

「プルースト、好きなんだって?」

フランス語で僕は尋ねた、、、などと書くと、いかにもキザな感じだけれど、授業でいつかプルーストが好きだと答えていたのを思い出して、(僕はプルーストなど一行ぐらいしか読んだことがないけれど)そう尋ねた。

「うん、まあ。」
「けっこう珍しいよね、プルーストが好きって。」
「そう?」

リアは独特のハスキーな声で答えた。それまで聞いたことのない、ずいぶんと特徴のある声だった。

「どこから来たの?」
「ブラジル。」

ブラジル。彼女はそう答えた。しかしその時、その国の響きは、僕の中にこれといって特別な感情を呼び起こしはしなかった。

posted by aye(あい) at 08:54| Comment(0) | TrackBack(0) | ブラジルへの道 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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